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2017.11.02

グリーフケアの必要性

遺される家族の悲嘆を考える

エンディングワークの根底には、本人(1人称の視点)と家族(2人称の視点)との対話、すなわち1・5人称の関係性があり、本人が家族の視点から自分の死を考えることが大切だと思います。

しかし、実際の問題として、この世を去る時に、家族が受ける強い喪失感、悲嘆まで気遣う余裕はないでしょう。

そこで、家族が死別体験によって人生を大きく変えてしまわないように、家族の心を支えるための準備が必要ではないでしょうか。
 
 

悲嘆と悲しみとの違い

最愛の人を亡くした悲劇の主人公が登場する映画を見て、おもわず涙を流した経験をされた方があるでしょう。

しかし、これは共感による一過性の悲しみの感情であって悲嘆ではありません。

映画館の外に出てから、余韻が残っても、悲しみの感情が続くことはありません。

この事例で悲嘆と言えるのは、自分の死別体験が映画の主人公の体験に結びついて、強い感情である情動反応が起こった場合です。

実際、最愛の人の死を体験せずに死別の悲嘆を理解することはとても難しいことだと思います。

それでは、なぜ、人は悲嘆を感じるのでしょうか。
それは人生の中で唯一の存在である大切な人を失い、その事実を受け入れるしかない危機的な状況に陥っているからです。

極端な言い方ですが、故人に愛着を感じることなく、また代替できる人物がいれば、多少の喪失感があっても悲嘆は起こらないかもしれません。

少し学術的になりますが、悲嘆を引き起こす喪失体験は、最愛の人との死別だけでなく、失恋、親離れ、所有物や環境の喪失なども含まれます。

悲嘆とは、ある定義によれば、喪失に対するさまざまな心理的・身体的症状を含む情動反応であり、心身症状をともなう症候群とされることがあります。

具体的には、心理的症状としては、ショック、抑うつ、不安、怒りなど、そして身体的症状としては、食欲不振、不眠などです。

ここで大切なことは、悲嘆のこのような症状には、個人差が大きく、特徴的な反応はあるが、絶対的な反応はないということです。

悲嘆は「泣いているから悲しみが深い」あるいは「涙を見せないから悲しみが浅い」というものではありません。

泣けないほど悲しみが深いという悲嘆反応もあることを知っておく必要があります。
 

死別の行事や手続きに多くの人がストレスを感じる

関西学院大学 坂口幸弘教授が2001年に行った「配偶者との死別後に経験したストレス」調査によると、「死別後につらかったことは?」という質問に対して、いちばん多かった回答が「死別後の行事や手続き」71%です。

このことから、法要・納骨の仏事ごとや法律上の諸手続きが多くの遺族に負担を与えていることが分かります。

そして「一人暮らしになったことがつらかった」55%、これは夫婦のみの世帯の場合、死別後に独居になる可能性が高いと言えます。

現在は単身世帯が増え、人間関係が希薄となった無縁社会の問題がクローズアップされる時代です。

意外だったのが「思いやりのない言葉をかけられた」38%、三人に一人が周りの人の言葉で傷ついているのです。

多くの人は共感を表すために、例えば、「あなたの気持ちが分かります」という安易な言葉を選び、その結果、遺族の心を傷つけているのです。

遺族は「死別を体験しないで私の気持ちがどうして分かるの」と思っているかもしれません。

そして、「経済的に苦しくなった」36%、故人が家計を支えていた場合、また幼い子どもを抱える専業主婦にとって経済問題はより深刻でしょう。

さらに「親戚との間でトラブルがあった」34%、配偶者を亡くしたあと、義父母との関係が問題となることも珍しくはないでしょう。

特に遺産相続において、親族との間で対立が生じた場合には、そのストレスは深刻なものになります。

「炊事や洗濯など家事に苦労した」30%、「近所づきあいに苦労した」24%、妻を亡くした男性の場合、家事や近所づきあいが負担になることがあります。

最後に「家族とのコミュニケ―ションがうまく取れなくなった」14%、これは故人が家族関係の中心であった場合、例えば、妻を亡くした男性に対して息子の嫁が急に態度が冷たくなったといったケースなどです。
 

グリーケアを理解する

グリーフケアは、傷ついている遺族の心をさらに傷つけないように、遺族の気持ちを無視した行動や言動をとるのではなく、遺族の声に耳を傾ける「情緒的サポート」が大切だと思います。

そして遺族がサポートを必要とするのは、前述の調査結果から分かるように、情緒面だけでなく「道具的サポート」といって、法律問題、家事や育児、人間関係など実際的な問題に対する援助が求められているのです。

さらに悲嘆についての知識の提供や自助グループや各種行政サービスなどの社会資源に関する情報を提供する「情報的サポート」、精神科医やカウンセラーなどの専門的な治療として「治療的介入」が必要でしょう。

このようにグリーフケアとは、幅広い概念なのです。
 

エンディングワークとグリーフケア

それではエンディングワークにおいて、家族に対するグリーフケアにどう取り組めばよいのでしょう。

いちばん重要なことは、家族の心の支えとなる、例えば「ありがとう。大好きだよ。幸せになって欲しい」など、自分の素直な気持ちを伝えることです。

そして、家族への愛情を伝える方法として、エンディングノートや自分史、遺言書の附言事項への記入、友人などの第三者にメッセージを託すことなどがあります。

また、形見の品や遺影となる写真を準備することも、遺された家族の心の支えとなることでしょう。

私の父親は、63歳の若さで亡くなりましたが、青春時代に海外に赴任する際、父の両親が街の写真館で撮影して手渡した写真を生涯にわたって寝室に飾っていました。

父にとって両親の愛情を感じる大切な宝物であったと思います。
 

家族にグリーフケアの提供者をつなげる

人間は社会的な存在である以上、周りの人達からの支援が必要です。

発達心理学の理論に「ソーシャル・コンボイ」という概念があります。

これは、個人が有する社会的ネットワークにどのようなコンボイ(護衛隊)を自分のまわりに維持できるかという観点から人間関係をモデル化したものです。

この考え方をエンディングワークとグリーフケアに応用すれば、エンディングノートを使って「心」と「人」と「物」の棚卸しを行い。

その過程で「人」すなわち、自分の信頼できる社会的ネットワークを確認し、さらに、その中から、医師や友人など最愛の家族に対する“グリーフケアの提供者”を選び出し、家族につなげることが重要なテーマになるのではないでしょうか。
 

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